このバージョンの Renoise は、この夏に Redux プラグインで装備した機能的な特徴を内包したものです。つまり、Redux 用に作られたインストゥルメントを Renoise でロードする事(もちろんその逆も)が出来るようになりました。
もちろん Redux の機能的統合は今回の大きな改良ですが、それが全てではありません。Renoise 3.1 をより良いリリースにする為に、長らく求められてきた幾つかの機能を詰め込んでいます。
サウンド・エンジンの改良 †
最初に、Renoise 3.1 のサウンド・エンジンには、おびただしい改良が加えられています。完全に新設計されたフィルター部や、サンプル再生時のオーバーサンプリング & 帯域制限(band-limiting)処理オプションの追加等です。
サウンド改良リスト: †
- 新設計のデジタル&アナログ・フィルター: 遅延無しで、サーチュレーション(飽和)とオーバーサンプリング・オプション付き。デジタル=日常的・実用的でクリーンな設計。アナログ=暖かくキャラクター付けされた設計。これらは新規の DSP デバイス、【Digital Filter】【Analog Filter】として提供される他、モジュレーション画面でのポリフォニックなフィルターとして、また、既存の DSP デバイス(Chorus や Flanger)に内蔵される形でも提供されます。
- 新フィルターのタイプは、2 pole K35 filter, Biquad, classic 4 or 2 Moog, Diode 4 pole filters, Vowel filter, Chebyshev 4 and 8n filter(ripple=波紋の調整付き), Butterworth 4 and 8n filters, です。
- サンプル再生の帯域制限&オーバーサンプリング・オプションは「エイリアシング(波形のギザギザ)」を減らします。特に小さいループ・サンプルに効果が期待出来ます。もしあなたが、手書きの波形や1サイクルのオシレーター波形をよく使うのなら、この機能は大きな違いを生み出せるでしょう。
(*サンプラー画面の左下、Interpolation 欄にある [AA] と書かれた小さなボタンの事。"Anti-Aliasing"。マルチサンプルの場合、まず全てのサンプルを選択状態にしてから [AA] をオンにしてください。)
- Comb Filter デバイスはノート周波数で調整可能になり、Distortion デバイスはオーバーサンプリング・オプションが付加されました。RingMod デバイスと、インストゥルメント・モジュレーション画面の AM 式のフィルターには帯域制限オシレーターが付加されました。
- Chorus, Flanger, Phaser デバイスにはフェーズ(位相)リセット・ボタンが追加され、更に Chorus, Flanger には新しいフィルターも内蔵されています。
- 改良型 Convolver デバイスはゼロ・レーテンシ―となり、小さな IR(cabinet IRs)では更に密度が深いサウンド、大きな IR(Reverbs)では CPUピーク, XRUNS が少なくなるはずです。
- Send と MultiSend デバイスに「Apply post mixer volume & pan」というオプションが追加されました。これをオンにすると、各トラックの最後尾にあるポスト・フェーダーのゲイン・レベルが、そのトラック内の全てのセンド・デバイスに反映されるようになります。(*恐らく、センド・デバイスがポスト・フェーダーよりも後ろにある状態になる、と考えるといいと思います。)
- 192000 Hz サンプル・レートに対応(ただしサウンド・カードが対応している場合に限る)。
フレーズ機能の改良点 †
Renoise 3.1 のフレーズ機能はよりパワフルに改良されました。フレーズ編集画面で作業をする間、「まるでパターン・エディターを使うように」それを扱えます。そして、パターン・エディターで作業する場合でも、フレーズを操作するオプションがいくつも存在します。
- フレーズは2つの方式でトリガー出来ます。1つ目のモードは【KEYMAP】で、鍵盤上の特定の範囲を指定(例えば C-3 から B-3 まで等)して、1つ又は複数のフレーズを割り当てる事が出来ます。これは基本的に Renoise 3.0 と同じです。
そして2つ目のモードが【PROGRAM】で、フレーズを瞬時に選んで、鍵盤の全体を使ってプレイ出来ます。このモードではキーマップを作る必要が無く、どんどん違うフレーズを作っておいて、それらを切り替えて演奏出来ます。
- PROGRAM モードでフレーズを簡単に切り替えられるように、新しいパターン・コマンド Zxx(xx は 0~127 までのプログラム番号)が追加されました。これにより、パターン・エディター上でノート毎に自由にフレーズを切り替えられます。また Zxx コマンドの代わりに、【Instrument Macro】デバイスを出してオートメーションを作ったり、外部から MIDI Program Change 信号をインストゥルメントに送ったりして、フレーズを切り替える事も可能です。
- フレーズ画面に、新しくサンプル指定コラムが追加されました(フレーズ画面左下にある Note 欄の [##] Sample というアイコンを押すと表示される)。このサンプル指定コラムに、サンプル・リスト内の並び番号を入力する事によって、各サンプルを直接トリガーする事が可能になります(この時、サンプルのキーマップは無視されます)。
この機能がどういう物か理解するには、例えばドラムキットを使ったフレーズを作って、そのフレーズを異なる鍵盤キーで(転調して)トリガーしてみてください。[##] がオフの場合、鳴らす高さによってドラムキット配列がばらけてしまいますが、[##] がオンの場合はドラムキット配列は変わらず、各パーツの音程だけが変化するはずです。
- フレーズ毎の、シャッフル値指定、ループ・ポイント指定の追加。
- フレーズの各ノートコラムに対してエフェクト・コラムを使えるようになりました。(Renoise 3.0 では、全てのノートコラムに対してのグローバルなエフェクト・コラムしか使えませんでした。)
- フレーズのコラム毎に名前を付ける事が可能になり、各コラムはドラッグ&ドロップで並び順を変更出来ます。
インストゥルメントの改良点 †
- サンプル・ベースのインストゥルメント内で設定した DSP エフェクト・チェインの出力を、Renoise の各トラックに個別にルーティング出来るようになりました。つまり、サンプル・インストゥルメントでも、マルチチャンネルのプラグイン・シンセの様な自由なトラック・ルーティングが可能です。
- 上記に付け加えて、DSP エフェクトを設定したサンプル・インストゥルメントの再生方式が改良されています。例えば、Track1=ド、Track2=ミ、Track3=ソ、とコード音を複数のトラックに別々に入力して再生すると、Renoise 3.0 では 最後に鳴る "ソ" の音だけしか鳴りませんでした。それが Renoise 3.1 では、3音全てが鳴ったままになります。音の出口は依然1つのトラックに縛られたままですが、少なくとも音が鳴らない事は無くなりました。プラグイン・シンセと全く同じオーディオ処理だと思ってください。
- MIDI マクロの追加。これにより、サンプル・ベースのインストゥルメントでも、MOD ホイール、ピッチベンド、チャンネル・プレッシャーの各 MIDI 信号を認識出来るようになりました。通常のマクロ機能と同じ自由度で扱えます(1つのインプットで複数のパラメーターをコントロール可能)。
- モジュレーション画面の新デバイスとして【Stepper】を追加。音をトリガーする毎に、設定したステップ幅でグラフ上をジャンプします(文章では分かり辛いので実際触ってみてください)。オート・パンや、ある種のランダム・コントロールに役立つと思います。
- モジュレーション画面の各要素: Vol, Pan, Pitch, Filter の各インプット・スライダーが、マクロに割り当て可能になりました。ですから、基本的なコントロールの為に一々【Operand】デバイスをロードする必要は無くなりました。
- [Mono] ボタンにグライド数値設定を追加。[Mono] をオンにして G20 くらいに設定すると、リアルタイムで音と音を少し重ねて弾いた時、音が繋がってグライドするようになります。実際はエフェクト・コマンドの Gxx と同じ効果で、リアルタイム入力ではパターン上に Gxx が自動で入力されます。
- サスティン・ペダル対応。ペダルを繋いで、MIDI CC#64 を送ってください。
- [Hold] ボタンは、サスティン・ペダルに対応したので廃止になりました。
- MIDI プログラム・チェンジでの、MSB/LSB の順番の選択(MIDI 画面の "Bank" 欄)。もしあなたの MIDI デバイスが、選択したバンク信号に反応しない場合、この順番を変えてみてください。
各画面でのプリセット、ライブラリの追加 †
Renoise 3.1 は、更にパワフルなプリセット・システムを持っています。サンプルやキーゾーンをプリセットとしてセーブ&ロード可能になり、プリセットの全体的なブラウジング方式も改善されました。
プリセットの拡張 †
- ウェーブフォーム画面右上のプリセットは、作業中のサンプルのスナップショットを保存する為に使いましょう。
- キーゾーン画面右上にあるマルチサンプル・プリセットは、複雑なキーゾーン・レイアウトを簡単にセーブ&ロード出来ます。それをインポートすればキーゾーン画面に各サンプルのレイアウトが書き込まれ、エクスポートする時は、拡張型の SFZ 形式が使われます。
(その SFZ データには Renoise でしか認識されないサンプル・プロパティも含まれます。また SFZ を WAV 形式で書き出したい場合は、Preferences パネル >> Files 欄 >> Sfz Export で Wav を選択してください)
- サンプラー画面上部にあるインストゥルメント・ブラウザを使えば、Renoise インストゥルメントの管理や素早いアクセスが可能です。
- サンプラーのエフェクト画面右上の FX プリセットは、エフェクト・チェインをセーブ&ロード出来ます。エフェクト・チェインは、外部ファイル・ブラウザーからドラッグ&ドロップでインポートする事も可能です。
- Doofer デバイスのプリセットは、"Bundled Content" と "User Library" という2つのカテゴリーに分けて表示されるようになりました。
さらにもう1つの新機能として、コンテンツ・ライブラリーがあります。これは新しい拡張子形式(.xrnl)で、各カテゴリのプリセットをまとめて収納する「コンテナ」として機能します。Renoise の画面上にドラッグ&ドロップする事で簡単にインストール出来て、サンプラー画面上部にあるインストゥルメント・ブラウザーを使って簡単にその中身にアクセス出来ます。
*インストゥルメント・ブラウザー:上から、バンドル・コンテンツ、追加コンテンツ(もしあれば)、ユーザー・ライブラリー、の順で表示されます。
コンテンツ・ライブラリーが一旦インストールされれば、各コンテンツは Renoise 内の様々な画面で表示されるようになります。これらのプリセットは沢山の種類があるので、ライブラリーをインストールした時には「何をインストールしたか」というメッセージが表示されます。
もし、あなたが作ったプリセットを保存する場合、それは「User Library」という特別な場所に保管されます。これは基本的にコンテンツ・ライブラリーがインストールされる場所と同じロケーションにあり、この場所は Renoise と Redux で常に共有されます。つまり、Renoise でセーブしたユーザー・ライブラリー、又はインストール済みのコンテンツ・ライブラリーは、Redux からでも使用可能になります(逆の場合も同じです)。
各コンテンツは、Windows なら C:\Users\yourname\Documents\Renoise\ に収納されています。
登録ユーザーの方は、Renoise Backstage から非公開のコンテンツ・ライブラリーにアクセスする事が出来ます。ライブラリー・ファイルを Renoise の画面上にドラッグ&ドロップすればインストール出来ます。
VST & AU MIDI ジェネレーター(アルペジエーター)プラグインの対応 †
永らく望まれ続けていた機能の1つ、MIDI 信号を創り出すプラグイン(アルペジエーター、ハーモナイザー等)が遂に使えるようになりました。これらを使って、Renoise のインストゥルメントを「ドライブ
」させる事が可能です。
Renoise の Plugin 画面の左下「MIDI Routing」欄において、アルペジエーター・プラグインの MIDI 出力を、他のインストゥルメントにルーティングして音を鳴らす事が出来ます(注・ターゲットとなるインストゥルメントは、インストゥルメント・セレクター画面でアルペジエーター・プラグインより下に表示されている必要があります)。ただし、アルペジエーター・プラグインを使ってインストゥルメント・フレーズをトリガーする事は出来ません。
その他のワークフローの改良点 †
## 上図:グラニュラー・セレクション、下図:フレキシブル・マーク
- グラニュラー・セレクション(パターン&フレーズ編集画面での、より細かな範囲選択): "Alt を押しながら" マウスカーソルでドラッグ(又は、Shift + Alt + 矢印キー)で、サブコラム単位での選択範囲を指定出来るようになりました。つまり、ノートデータから Vol コラムの数値だけをカットしたり出来ます。
- また、"Begin/End selection" ショートカット(Ctrl + B / Ctrl + E)を使う場合も、サブコラム単位での範囲指定になります。
- フレキシブル・マーク(Alt + A / Alt + Z / Alt + Q): これは新しいタイプの範囲選択で、例えば Alt + A(カーソルより上を範囲選択)の場合、Alt は押さえたまま A を1回押すと最小のサブコラム単位で選択され、A を2回、3回と押すと、その選択範囲の幅が広がります。 Alt + Z(カーソルより下を範囲選択)、 Alt + Q(Block Loop 区間を範囲選択)も同様です。
- サンプラー・ウェーブフォーム画面: "Apply DSP FX ボタン" を押して、エフェクターをサンプルに反映させてサンプリングする場合、トラックDSP(TFX)、サンプルDSP(SFX)、のどちらのエフェクト・チェインを反映させるかが選択可能になりました。
- パターン・エディター画面: ノートコラム毎に名前を付けて、ノートコラムの並び順もドラッグ&ドロップで変更させる事が可能になりました。
- MIDI インポート: MIDI ファイルをインポートする場合、新規ソングを開き直すのではなく、既にあるソング・ファイル内(最後尾)に追加されるようになりました。
- ソング・オプション・ダイアログ(メインメニュー >> Song >> Options...): 以前あった "Playback Options" と "Highlighting & Defaults" を統合して1つのダイアログにしました。
- 上記のソング・オプション内の "Playback Options" 欄に "Automation Following" を追加。曲全体を再生する場合はこのオプションはオンにしておくのが良いでしょうが、例えば1つのパターンだけをループさせて鳴らしている場合に、離れた場所にあるオートメーション値の影響を受けないようにしたい時には、ここをオフにすると良いでしょう。
しかし、ことわざにもあるように、全ての物には代償が伴います。私達は Renoise 3.0 のサンプラー画面で慣れ親しんだ "アコーディオン" タイプの画面切り替え表示に「さよなら」を言わなければなりませんでした。(T_T)/~~~
(注:あれはかなり手の込んだ機構だったし、こんな画像まで作って、さぞかし無念だったんでしょうね・
)
内部的な(表に見えない)改良点 †
- 全般的なパフォーマンスの改善、特に 64bit 版でのマルチコア・スケジューラーの改良。
- Lua API: OSC messages are now expected to be SLIP'd when sent over the TCP protocol (注:すみません、この意味がハッキリとは分かりません。)
- 拡張されたデフォルトの OSC メッセージ・セット: 新しいインストゥルメントに関連した沢山の OSC メッセージが追加されています(今まで通り、あなた自身で Lua を使って新しいメッセージを作る事も出来ます)。
リンク †
最新ビルドは Renoise Backstage からダウンロード出来ます。
バグレポートや機能的な議論は本家フォーラムで行われています。 Renoise 3.1 Beta Forum